地方の空き家問題にどう対処すればいい?シニアが空き家を“負債”にしないための心構え

(株)田口住生活設計室田口寛英氏
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 「家は財産」そんな常識が、もはや通用しなくなっている。全国に900万戸以上ある空き家。その多くが「誰も住まない」「売れない」「片づけられない」という“三重苦”を抱え、相続後に家族の負担となってのしかかってくる。

 今回取材したのは、住まいの相談に長年携わってきた株式会社田口住生活設計室。リフォームや住み替え、そして相続まで、シニア世代の「これからの住まい方」に関するリアルな課題と向き合ってきたプロフェッショナルだ。

 「空き家の問題は、“そのとき”が来てからでは遅い」

 そう警鐘を鳴らす田口氏の言葉に、私たちがこれから考えるべき“家のしまい方”のヒントが詰まっている。

放置が招くコスト“家が負債になる瞬間”

 空き家は、ただの「使われていない家」で終わらない。相続が発生すると、その家は突然、重荷となってのしかかってくる。遠方の実家を相続しても管理できず、中は残置物だらけ。業者に処分を依頼すれば、100万円以上かかることも少なくない。家と土地を売却しても、片づけ費用が売値を上回るケースさえある。もちろん、残置物が少なければ費用は抑えられるが、実際には片づけ費用のほうが高くつくという相談が多く寄せられている。

 こうした状況から相続自体を放棄する人も出てくるが、それは別の問題を生む。放棄された家は管理者がいないため傷み、荒れ果て、地域にとって危険な存在となる。

 自治体よっては「特定空き家」として対処する制度があるものの、実際に動ける自治体は限られる。人手も予算も不足し、対応が追いつかないのが現状だ。さらに、空き家には固定資産税がかかり続ける。誰も住まず、売れもしないのに、維持費だけが発生し続け、家は「資産」から「負債」へと変わってしまう。

 田口氏は、「家を持っていること=資産」と思い込む人が、相続を機にその認識を覆される場面に何度も立ち会ってきたという。「親の代では“家を残してあげた”つもりでも、子どもにとっては“処理に困るだけのもの”になってしまうことがある。それって、悲しいですよね」と語る。

空き家を再生できるのは一部だけ。安易な投資の落とし穴

(株)田口住生活設計室田口寛英氏

 「空き家をリノベーションしてカフェにしたら面白そう」「民泊にして副収入を得たい」そんなイメージを持って空き家活用に興味を持つ人は少なくない。実際、メディアでは空き家を活かした成功事例がよく取り上げられている。

 しかし、そうした事例はほんの一部。現場をよく知る田口氏は、「実際にうまくいっているのは、観光地や都市部など、限られたエリアだけなんです」と話す。続けて田口氏は「地方の空き家は、そもそも人が住んでいない場所にあることが多い。きれいに直しても、そこに“住みたい人”がいなければ使われません」と語ってくれた。

 空き家活用を目的に物件を購入し、リフォームして貸し出す動きもあるが、ここにも落とし穴があるという。「安く買える家ほど、傷みが激しいことが多い。住める状態にするには、最低でも1000万円以上かかると見ておいたほうがいいですね。300万や500万円のリフォームでは、表面的な改修にとどまるケースが多いです」。

 さらに、古い家では「建築確認申請書」や「検査済証」が残っていないこともある。それがないと、違法建築とみなされて再建築ができなかったり、売却に不利になることもあるという。「不動産業者が行うインスペクション(住宅診断)も、基本的には“目に見える範囲だけ”のチェックです。本当に安心して買いたいなら、信頼できる専門家に相談することが大切です」。

 空き家の活用は、たしかに可能性もある。けれど、それは場所や条件、資金力などがそろって初めて成り立つものだ。「掘り出し物だと思って買ったら、想像以上にお金がかかった」「結局、誰にも貸せず持て余している」そんな声も少なくない。田口氏は「「夢を持つことはいいことです。でも、“思ったより大変だ”という現実も知ったうえで判断してほしい」と語った。

住み替える? 残す? 定年前後で考える“逆算の家計画”

「老後のことを考えて、家をどうするか相談に来る方は、実はあまり多くないんです」。そう語る田口氏だが、だからこそ“定年前後”の住まいの見直しには大きな意味があると強調する。

田口氏のもとには、築年数の古い家に住みながら、「この先もここで暮らせるか不安」「バリアフリーにしたい」といった相談が寄せられる。こうしたリフォームの動機は、今ある“困りごと”を解決するためのものが多い。しかし田口氏は、「その場しのぎではなく、これからの暮らし方を見据えた“逆算”が大切」と話す。

 「たとえばリフォームすべきか、住み替えるべきか。どちらが自分に合っているかは、誰に相談するかによって大きく変わるんです」。 リフォーム業者に聞けば当然「直しましょう」となるし、不動産会社は「売って住み替えを」と勧めてくる。だからこそ、立場の偏らない人に相談できる環境が必要だという。

 また、築年数のみにとらわれず「その家が丁寧につくられているかどうか」を見る目も大切だと田口氏は指摘する。古くても、しっかりした構造と材料で建てられている家なら、まだまだ快適に住み続けられる可能性があるからだ。

 「リフォームというと“部分的な改修”のイメージが強いかもしれませんが、これからの暮らしに本当に必要な要素を逆算して整える“逆算リフォーム”の視点を持ってもらえると、選択肢が広がるんです」

 定年退職や子どもの独立といった人生の節目は、住まいのあり方を見直す絶好のタイミング。 “今の不便”だけでなく、“これからの自分”に合った家をどう整えるか。その選択の積み重ねが、安心できる老後の住まいにつながっていく。


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《平木昌宏》

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