全国500か所以上にある「ハローワーク」、あなたの家の近くにもあるかもしれない。ハローワークは国が運営している公共職業安定所。役所というイメージから「対応が冷たそう」「何をどう相談すればいいのかわからない」といった漠然とした不安を覚える人も少なくないだろう。
筆者もその一人。10年前にリストラされ、失業保険の手続きのためハローワークのお世話になった。現在は58歳、もうすぐシニアの仲間入りである。最近ふと「この先、まだ働き口はあるのかな?」と不安になり、10年ぶりにハローワークへ足を運んでみた。正直、少し怖かった。
久しぶりに訪れたハローワークは、想像以上に丁寧な対応で、手厚いサポートを受けられた。正直、「この歳で相談に行って浮かないかな」と身構えていたが、そんな不安はすぐに消えた。ちょっとした相談にも関わらず、図々しくも応募先を提案してもらったところ、自分の条件に合わせた企業を9件も提案してくれたのだ。
しかも、利用はオンラインでも完結できる。今回は実際に足を運んでみたが、今は自宅にいながらでも登録から職業紹介まで受けられるという。この記事では、筆者が体験したハローワークでの一部始終を、「登録」から「職業紹介」までリアルにレポートしてみたいと思う。
ドキドキ、10年ぶりのハローワーク
前回ハローワークのお世話になってから10年。今回向かったのは町田にあるハローワーク。ネットで調べてみると、町田には本庁舎とは別に、森野ビルという別館も存在するらしい。
なんだか、離れ小島にある分室のようでちょっと怖い。相談そのものも久しぶりで、少し緊張する。
求職者向けの建物は小田急線町田駅北口から歩いて3分ほど。たどり着いたハローワークは思ったよりもオシャレ。受付あたりでウロウロしていると、受付の女性が笑顔でにっこり。「どうされましたか?」と声をかけてくれた。
「10年ぶりに利用するのですが…」と答えると、手渡されたのは「求職申込書」。どうやら、5年以上前の記録は残らないらしく、改めて一から登録し直す必要があるそうだ。

求職申込書には名前や連絡先、職歴などの「基本情報」のほか、職種や賃金、勤務地といった希望条件を記入する。必須記入項目の中には「育児や介護」の有無、「身体上の注意点」(障がいなどの有無)を書く欄もある。10年前には見かけなかった項目だが、今の時代は必要な条件なのだろう。思いのほか記入箇所が多い。
ただ、勤務地や条件など明確に決めていないことも多かったため「全て埋められないかも」と固まっていた僕。「分かる範囲で結構ですよ」という受付の方の優しいお言葉に甘えて、けっこうスカスカな状態で提出した。
「ありがとうございます。そちらの椅子にかけてお待ちください」と笑顔で案内され、相談窓口に呼ばれるまで、待合エリアの椅子で待つことになった。
58歳リストラ経験あり、こんな僕を採用する会社なんてある?
現在58歳の僕は、これまで複数の転職歴がある。新卒で入社したのはレンタル・イベント会社。あの「ネズミの国」の社内向けイベントもお手伝いしたこともある。ただ、入社5年目位からバブルの影響で働いていた店舗が閉鎖されるなど、雲行きが怪しくなっていった。
そこで結婚を機に転職を決意。印刷会社へと就職した。5年を過ぎたころ、スキルアップのため、地元の印刷会社へ転職。大きな成長こそ見込めないが、安定した日々が続いていた。しかし、15年ほど勤めた2012年、突如会社はM&Aを行うことになった。まさに青天の霹靂である。雇用状況や立場が微妙に悪化する中、「今さらほかの会社へ転職するよりはマシ」と考え、必死でしがみつく毎日を過ごしていた。
M&Aから1年を過ぎたころ、経営トップがグループ内の別会社に変わり状況は一変。2013年の12月、突然「2か月後に辞めてくれ」と肩たたきの対象メンバーになった。「NO」という選択肢はなく、2014年の年明けから、妻と子がいる中で無職生活へと突入したのだった。その時、失業保険給付でお世話になったのがハローワークである。ずっと営業職だったので、何か手に職をつけなくては、と失業保険の給付を受けながらデザインとWEBの「職業訓練」に通学。2014年にデザイナー(ただし、パート職)として就職することができた。
無事に再就職は果たしたものの、新たなトラブルに見舞われた。同僚からのパワハラである。約1年戦ったものの体調を崩し退職を余儀なくされた。軽いうつ病で通院した後、ちょうどネットでの仕事紹介サービスが広がり始めた時期でもあり、これまでの経験を生かしてライターとして再出発。何とか食べていけるようにはなった。とはいえ、現在の仕事はとても不安定である。将来が不安だ。だからこそもう一度ハローワークに行ってみようーーそう思ったのだ。
自分のPRポイントは何?丁寧に深堀りしてくれる職業相談

ハローワーク町田の待合エリアは30~40席位のスペース。この日は水曜日の午後だったせいか、それほど混んではいない。待っているのは5~6人といったところで割と快適に過ごせた。前回利用したハローワークでは、結構すし詰め状態だったのを思い出した。
周囲を見渡してみると、「早期就職支援コーナー」「シニア応援コーナー」「ハロートレーニングコーナー(職業訓練」「マザーズコーナー」「若者相談コーナー」など相談窓口が細かく分かれている。年齢や性別、状況により、受付先が違うようだ。
待合室のモニターには「官公庁のお仕事紹介も可能です」など、お仕事の一端が紹介されている。窓口を見回しながら、「60歳近い自分は、やっぱり“シニア”になるのかな?」と考えてしまう。この年齢で就職相談なんてしていいのだろうか?そもそも就職先はあるのかな?なんて想像して待っていると、15分ほどで自分の番に。呼ばれたのは通常の職業相談窓口だった。
対応してくれたのは、30代後半くらいの物腰柔らかな男性職員。通常の相談でいいのだろうか?思わず質問してしまった。
「僕はシニア世代になるんでしょうか?」
「シニアにはならないですね」と担当者さん。「ご本人の希望もありますが、60歳とか65歳位の方はシニア窓口をおすすめしています」求職申込書の内容を入力しながら、こちらの状況を丁寧に確認してくれた。
「小さいお子さんや介護が必要な方はいらっしゃいますか?」「ご自身のお体で、仕事上で何か気を付けることはありますか?」求職申込書には記載したのだが、念を入れてもう一度聞いてくれた。この辺りの配慮は10年前よりも進歩しているなぁ。「運転免許はオートマ限定ですか?」という質問もされた。仕事で車を使う場合は大切な条件だからなのだろう。
「在宅勤務は希望されますか?」コロナ禍以前の10年前の相談時にはありえない条件ではないだろうか。思わず「はい」と答えた。
続いて、これまでの経歴を聞かれた。僕の場合は、現在のライターという仕事とその前職のデザイナー(パート)、その前の印刷業の仕事を中心に話をした。
「なぜ、その仕事を辞めたのですか?」という質問も覚悟していたが、そういったことは一切なかった。あくまで、どういう仕事をしてきて、何ができるのか、といった内容が中心である。リストラやパワハラなど、無理に話す必要はないようで、ちょっと安心した。丁寧に深堀りしてもらったヒアリング内容をまとめて就職の方向性が決まるようだ。
「僕の場合、どういう仕事を探すといいでしょうか?」と単刀直入に聞いてみる。「やはり、これまでの経験を生かせる仕事がいいですよ」と担当者さん。
最終的に、編集や取材・執筆といった、自分の経験を生かせる仕事に登録することにした。できれば現在の自営業とも両立したい。そこで、働き方はパート、週に数日程度とゆとりある勤務形態を選択した。
これで求職申込登録は完了。ただし、すぐに求職活動を始めなければいけないというわけではない。このまま帰宅しても問題ないとのことだった。
プロの技、わずか数分で8件のお仕事を提案

せっかく自分の仕事人生の棚卸ができたので、具体的にどんな仕事があるのか気になった。そこで、こんな質問をしてみた。
「僕の条件でおすすめの仕事はありますか?」
すると「このまま待っていてくださいね」と担当者さん。パソコンを軽快に操作し始めた。
わずか5分ほどの間に条件に近い候補を、なんと8件も探してくれた。しかも神奈川には該当がなかったため、東京エリアにまで範囲を広げて調べてくれた。全部で8件の応募先を探すのにかかった時間はわずか6~7分ほど。仕事がとても早いなぁ、さすがプロ。以下におすすめしてくれた応募先をいくつかをご紹介する。
(1)
事業所種類:出版社
職種:編集者
就業時間:10:00~15:00・10:00~16:00・11:00~16:00(週2日~5日)
※60歳以上も応募可(1年毎の更新)
賃金・手当:1,170円~1,400円
(2)
事業所種類:建築業
職種:編集アシスタント
就業時間:10:00~19:00の間で6時間以上(週4日~週5日)
賃金・手当:1,400円~1,500円
(3)
事業所種類:広告代理店
職種:編集・進行管理等
就業時間:10:00~18:00の間で実働5時間以上(週3日程度)
賃金・手当:1,170円~1,600円
(4)
事業所種類:業界向け新聞社
職種:記者
就業時間:9:30~17:30の間で6時間以上(週4日~週5日)
賃金・手当:1,400円~1,800円
(5)
事業所種類:独立行政法人
職種:出版物の企画・編集
就業時間:9:30~18:00(週4日程度)
賃金・手当:1,378円(時給)
ほかに、条件が多少違う出版関係が2社、業界向け新聞が1社あった。思った以上にバラエティに富んだ企業ばかりだ。正直、清掃業や警備業など、いわゆる“シニア向け求人”ばかりが出てくるのかと想像していたが、これまでの仕事経験を詳しく伝えたおかげで、希望に合った内容で提案してもらえたようだ。
在宅勤務の募集は見当たらなかったが、いずれの案件も東京都の最低賃金が1,163円以上(2024年10月~)を上回っている。土・日・祝休み(週休二日制)、就業日数も週1日から可能など、かなり働きやすそうだ。「60歳以上も応募可」と明記された求人も複数あり、業種の幅を広げれば、選択肢はもっと広がりそうだ。
結果通知までの期間もさまざまで、今回提案してもらった応募先でも「面接後5日以内」「面接後21日以内」など合否決定までの期間は会社によって大きく違うようだ。
以前、ハローワークを利用した際には、紹介された案件のプリントを見ながら「この場で応募されますか?」と聞かれた記憶がある。そのときは、担当者が企業に電話をかけ、「〇〇の求人はまだ応募可能ですか?」と確認してくれたものだ。
今回も、「この場で応募されますか?」と聞かれるのだろうか――と窓口の方に目をやると、こんな言葉が返ってきた。
「検索結果はお持ち帰りください。応募されたい場合は、ハローワークから紹介状を発行いたします」
そう言って手渡されたのは、「求職番号」が書かれた受付票と、冊子『ハローワーク利用ガイド』である。この番号を使えば、次回来所時や電話での相談もスムーズに進むそうだ。


就職活動を家で完結。ハロワは申し込みからお仕事紹介までオンラインでもOK
今回は相談窓口で応募案件を提案してもらったが、職探しはハローワーク内のパソコンで検索することもできる。さらに、「ハローワークインターネットサービス」という専用サイトに登録すれば、来所しなくても申し込みから案件の検索、紹介状の発行まで、就職活動のほとんどを在宅で完結できるという。
「離れた地域の案件も、検索可能です。紹介状もオンラインデータでお渡ししますよ」と担当者さん。基本的に来所の必要がないので、とっても楽ちんだ。
「来所をおすすめするのは、どんな場合ですか?」と聞いてみたところ、失業保険の給付申請のほか、履歴書の書き方や就職手続きの進め方が分からない場合、あるいは直接相談をしながら活動を進めたい人に向いているとのことだった。
今回、10年ぶりにハローワークに足を運んでみたが、受付から相談まで丁寧な対応が印象的だった。ハローワークの中の人たちを根拠なく「怖い」とイメージしていた自分がなんだか恥ずかしく思える。
また、シニア世代でも意外と幅広い職業の選択肢があることを知った。今回利用はしなかったが、「早期就職支援コーナー」「シニア応援コーナー」「ハロートレーニングコーナー(職業訓練)」など年齢や状況に応じたサポート体制も整っており、しかも無料である。ハローワークを利用しないのはもったいない。まずは気軽にオンラインで情報に触れてみてはどうだろうか。