「60歳を機に、夫婦一緒に仕事をやめる」
そんな暮らしを選ぶ人は、まだまだ少数派かもしれない。誰もができそうで、なかなか踏み切れない選択である。
共働き世帯の増加や「人生100年時代」と言われるなか、定年退職後のライフスタイルは人それぞれに多様化している。一方で、家計の管理や夫婦の関係、健康への不安を抱えながら、定年を迎える人は少なくない。
YouTubeチャンネル「定年男子」を運営しているのりさん(60歳)は、昨年5月末に定年退職し、再雇用は選ばなかった。妻・ゆりさん(58歳)も来年に定年退職を控えており、同じく再雇用は考えていない。定年後は、夫婦で“新しいこと”を楽しむ時間を優先したい。そんな思いから、夫婦で家計を見直し、生活も関係も改めて整えることから始めたという。
それまで家事は妻任せ、すれ違い続きだったという二人。のりさんの定年退職をきっかけに、家計管理や健康管理のスタイルを見直し、夫婦関係も少しずつ変わってきた。
退職から1年。のりさん夫妻が感じたリアルな変化とは。「定年後の二人暮らし」を不安に思う読者に向けて、定年退職後の生活や夫婦関係について実体験から見えたヒントを聞いた。
退職を機に家計管理を見直し、生活費は二人で月26万円に

ーー退職をきっかけに、家計や生活費の管理はどう見直されましたか?
退職後は、夫婦で話し合いながら家計を管理するようになりました。家計簿はアプリでつけており、資産状況もお互いに確認できるようにしています。
生活費は月26万円を目標にしていますが、実際には30万円を超えても問題のない状況です。ただ、高めに設定すると、そのまま使ってしまいがちになるため、あえて低めに設定し、意識的に支出を抑えるようにしています。この方法にしてから、自然と節約もできるようになり、私たちには合っていると感じています。
ーー生活費を抑えるための工夫は、どのようなことをしていますか?
退職後は私が家事を担当しているので、買い物や調理もすべて私の役割になりました。食事に関しては、外食を減らし、自宅で食事をすることを増やしています。料理はまったくできなかったのですが、今では常備菜を作れるまでになりました。夕食に4、5品のおかずが並ぶと、食卓が華やかになり、気分も豊かになります。作ることそのものが楽しくなってきたことで、外食に頼ることも減り、結果的に食費の節約にもつながっています。
ーー夫婦で「新しいこと」にお金や時間を使っているそうですね。
退職後は、夫婦でできるだけ休日を一緒に過ごすようにしています。私たちが大切にしているのは、「初めての体験をする」「初めての場所に行く」といった、これまで挑戦したことのないことにチャレンジすることです。
YouTubeでも、水彩画や書道など、普段やらないようなことを、思い切ってやってみていますが、年齢を重ねてから新しいことを始めるのは、恥ずかしさもあるんですけど、それ以上にワクワクするんですよね。上手くなろうとか、結果を求めるんじゃなくて、あくまで素人のまま、気負わず楽しむようにしています。
“自発的な家事”が夫婦関係を変えるきっかけに

ーー夫婦間の“すれ違い”が起こった時期はありましたか
今は一緒にYouTubeを撮って仲がいいように見えるかもしれませんが、数年前まではちょっとギクシャクしていた時期がありました。僕らは共働きだったので毎日バタバタで時間がなく、妻は残業も多くクタクタ。それで家事はほぼ妻がやっていたので、最低限のことしかできない状態でした。食事作りと洗濯で手一杯という日が続いていたんです。
一方、僕は帰宅が遅いことを言い訳に家事を全部妻任せにして、手伝う気もなかった。それが当たり前だと思っていました。そんな状態で、洗濯物が取り込まれていないとイライラしたり、休日に「掃除をしてから出かけよう」と言われると、嫌そうな顔をしてしまったり。当時は、妻のことを「うるさい」「面倒くさい」と感じてしまっていました。
そういう時に、娘が大学を卒業して県外に就職するという話題が上がりました。今は娘がいるから家族のバランスを保てているけど、もし二人暮らしになったら大変だな、と思いました。「熟年離婚」という言葉もよく聞くし、定年退職をして自分が収入がなくなったら夫婦としてどうなるんだろうと不安になったんです。
ーーその“すれ違い”をどう乗り越えましたか
妻が担当していた家事を、私がすべてするようになりました。振り返ってみると、家が散らかっているとか、急に家事を頼まれて不機嫌になるとか、すべて「僕が家事をしてこなかったこと」が原因だと気づいたんです。定年退職が見えてきた時期くらいから「家のこと、俺もやるよ」と話して、少しずつ家事に参加し始めた。そうしたら妻の時間に余裕ができて会話が戻ってきた。そのおかげで、将来のことを話し合える環境になったんです。
最初は「洗濯は自分が全部やる」と決めるところから始めました。洗濯って地味に工程が多いんですよね。洗濯機に入れる、取り出す、干す、取り込む、タンスに片付ける…。それを全部やるようにしたら、妻の負担が少し減ってきて、関係も変わってきました。今思えば、そんな積み重ねが、夫婦関係を変えるきっかけになったのかもしれません。
ーー定年退職後、夫婦の時間が増えることで衝突することはありましたか?
若い頃は、些細なことで衝突も多かったのですが、年齢を重ねて、ぶつかることは減りましたね。それでも半年に一度くらい、小さな行き違いからお互い不機嫌になることはあります。
うちの場合、言い争いになるというより、2人とも無口になって黙り込んでしまうタイプなんです。昔は1週間くらい口をきかないこともありましたけど、今は2~3日もすれば、どちらかが会話の糸口を見つけて、自然と戻れるようになりました。これからも小さな衝突はあると思いますが、お互いの扱い方もわかってきましたので(笑)そんなに心配はしてないんですよ。
定年前から考えたい、二人暮らしの準備と心構え
ーー同世代で「定年後の二人暮らしが不安」という方に向けて、伝えたいことはありますか?
状況は人それぞれですが、僕の経験から言えば、「相手が抱えている負担を肩代わりする」ことが大事かなと思います。
特に、僕たちの世代の男性は、家事は妻がやるものだと、どこかで思い込んでいる人が多いんじゃないでしょうか。でも、定年後に急に二人で過ごす時間が増えて、「今まで何もしてこなかったのに、何言ってるの?」って思われたら、しんどいですよね。
だから、そうならないためにも、早めに家事や会話を増やして、結婚当初の二人に戻るような気持ちで、暮らしを見直すのがいいんじゃないかと感じています。いきなり全部やろうとしなくても、できることから少しずつでいい。そうやって、一緒に暮らす時間を気持ちよくする工夫を重ねるのが、大切なのではないでしょうか。
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