【シニアの転職】「働かないおじさん」から「働くおじさん」へ!60代以上のシニア労働市場に変化

ミドルシニア労働市場スペシャリストの石井宏司氏【撮影/平木昌宏】
  • ミドルシニア労働市場スペシャリストの石井宏司氏【撮影/平木昌宏】
  • ミドルシニア労働市場スペシャリストの石井宏司氏【撮影/平木昌宏】
  • ミドルシニア労働市場スペシャリストの石井宏司氏【撮影/平木昌宏】
  • パブリックリレーションズ部の望月未和氏【撮影/平木昌宏】
  • 60代の「doda」新規登録者数の推移(C)パーソルキャリア



 これまでの記事で筆者は、ハローワークや転職サイトを訪れ、応募者の視点からシニア世代の就職事情を探ってきた。ハローワークでは職業相談を通じていくつかの求人を紹介され、条件や地域の違いによって多様な応募案件が見つかることがわかった。

 では、採用側の視点では転職事情はどう変化しているのだろうか。専門家の目から見た今後の転職事情も知りたい。そこで、転職サービス「doda(デューダ)」や副業・フリーランスのプロ人材支援サービス「HiPro(ハイプロ)」を運営するパーソルキャリア株式会社に足を運んだ。ミドルシニア労働市場スペシャリストの石井宏司氏と、パブリックリレーションズ部の望月未和氏に、60歳以上のシニア層の正社員を中心とした転職事情をうかがった。

転職年齢が上昇中!dodaのシニア登録者数は4年間で2倍に

60代の「doda」新規登録者数の推移(C)パーソルキャリア

――近年における60歳以上のシニア層の正社員への転職事情について教えてください

石井氏:国内の少子高齢化にともない、労働市場の平均年齢は着実に上昇しています。労働力不足が明確になる中、弊社の転職サービス「doda」でも、60代の新規登録者数がここ数年増加傾向にあり、2019年度と比較して2023年度は2倍に増加しています。転職決定者数も同様に伸びていて、60代を例にとると、2020年から2022年の3年間で約1.3倍に増えているんです。

――転職決定者が増えている職種には、どのような傾向がありますか

石井氏:従来から平均年齢層が高い業界である建築系や、建設・不動産系のビル・マンション管理などは比較的年齢が高い人が好まれる傾向にありますね。近年は製造業企業の国内回帰も始まっている関係で、製造業系の募集も多くなりました。ほかにも企画管理系の募集も見られます。

こうした背景には、シニア層の豊富な経験へのニーズの高まりがあります。たとえば建設業であれば現場で使える資格、製造業であれば生産管理での経験などですね。大企業を早期退職された方が中小企業の管理職に迎えられるケースも見られます。

全体的には、50代後半から60代にかけて、さまざまな職種・業種で転職される方が増えている印象です。地方では人材不足がより深刻化していますし、50代になると親の介護も視野に入ってくるでしょう。昔でいう「Uターン転職」といった事例も今後増えるかもしれません。

シニア世代の「働くことへの意識」が変化している

ミドルシニア労働市場スペシャリストの石井宏司氏【撮影/平木昌宏】

――シニア世代の正社員への転職者数が伸びている背景を教えてください。

石井氏:多くの方とお話をしてきて感じるのですが、長く勤めたほど、組織への所属欲求と「自分の経験を生かしたい」という貢献欲求を強くお持ちです。製造業の現場など技能系の方であれば、若手の育成や技術の伝承なども意識するでしょう。収入の安定性というメリットと相まって正社員への転職者数が伸びているのだと思います。

また、2024年の秋冬から2025年にかけ、特に50代の転職市場が活性化しています。これは大手企業の早期退職制度により優秀な50代人材が転職市場に流入した影響と考えられます。人材不足は今後も続くことが予想されますから、活性化の波が60代に及ぶのも時間の問題でしょう。

――働く方の意識はどう変化していますか

石井氏:単身世帯や夫婦世帯、お子さんのいらっしゃる世帯など、現在のミドルシニアのライフスタイルは多種多様です。収入にこだわらない方もいれば、子育てのため収入を重視する方もいらっしゃいます。ただ、60代で完全リタイアして悠々自適に暮らす人は少数派で、サラリーマンライフを60代以降も延長するイメージが強いですね。今後も75歳くらいまでこうした傾向が続くのではないでしょうか。

――これまでの職場で嘱託として働く選択肢もありますが

石井氏:確かに嘱託として働く道もありますが、転職希望者の声を聞くと、業務内容が大きく変わるケースが多いようです。当然、役職もなくなってしまいますし、第一線の営業や製造業務から後方支援に回されることが多いため、モチベーション維持が難しいのです。それまでの経験を日々の仕事で発揮できないというのは、我々が思っている以上に、ご本人にとっては苦痛なんだろうな、と感じます。「もともとやっていたような仕事がしたい」という声は非常に多いですね。

企業側の姿勢も変化、フリーランスや副業の道も

――企業側のシニア採用に対する意識の変化は見られますか

石井氏:さまざまな職種で労働力不足が深刻化する中で、シニア世代の採用に対する企業の姿勢にも変化が見られます。かつては「若い人を採用したい」という傾向が強かったのですが、少子高齢化が課題となった現在では50代の採用事例も増えてきています。「60代の正社員雇用」に踏み出す企業はまだ少ない印象ではありますが、徐々に出てきました。平均年齢も上がっていく中で今後柔軟な姿勢で採用する企業も増えていくものとみています。

パブリックリレーションズ部の望月未和氏【撮影/平木昌宏】

――転職以外にも、プロ人材として副業をする道も増えているそうですね

望月氏:弊社は「HiPro(ハイプロ)」という 副業・フリーランスのプロ人材のマッチングサービスを展開しているのですが、50代ぐらいから60代でご活躍の方は多くいらっしゃいます。

2024年度の3月期を前年同期と比較すると、「HiPro Direct(ハイプロダイレクト)」というプラットフォーム全体の総登録者数は2倍以上伸びています。60代シニア世代も同様の伸び率を示していて、他の年代の方と同様に、意欲の高い方が多いと感じています。

フリーランスという働き方の場合「エンジニア」などIT系の職種をイメージするかもしれませんが、ハイプロでは、経営企画や経理・財務・人事といったコーポレートサイドに属する職種の募集も見られます。副業・フリーランスという働き方においても、企業側の捉え方は変化しているんです。

石井氏:経営企画関連のニーズは、正社員市場でも高まっています。たとえば海外展開を目指す中小企業が、大企業で品質管理や海外取引に携わった人材をアドバイザーとして求めるケースもあります。輸出規制など海外企業との交渉や取引を積み重ねてきた経験が評価されているんですね。

シニア転職市場の展望と課題は?

――何歳まで働きたいという声が多いですか

石井氏:2024年の内閣府の統計をみると「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答した方が約4割となっています。弊社に相談に来られる方でも年齢を問わず働き続けたい、正社員として経験を活かしたいという意欲を持つ方が増えています。「長く働きたい」という個人の意識の変化と「シニアのエキスパートやベテランを正社員として迎えたい」という企業側のニーズ、これらの変化が相まって、50代・60代の正社員転職が増えてきているのだと思います。年金問題など収入の心配もある中、働く道を選択する方が先々の安心感があるのかもしれませんね。

――シニア転職市場の課題を教えてください

石井氏:2010年代前半に高い給与をもらいながら、生産性が低い「働かないおじさん」が話題になりました。バブル期入社世代に対する偏見ですが、今の50代~60代といったミドルシニアは「就職氷河期」を乗り越えた世代です。パソコンスキルもあり、地道に働いてきた方が多い。転職希望者が適正な評価を受けられるように「働かないおじさん」から「働くおじさん」へとバイアスを変えていかなくてはと感じています。

シニア世代が転職で抱える悩みとは?

ミドルシニア労働市場スペシャリストの石井宏司氏【撮影/平木昌宏】

――シニア転職者が抱える悩みはなんでしょうか

石井氏:「これからも働き続けられるのだろうか」「書類選考に通らない」「早期退職制度で離職したけれど、復職できるのだろうか」。キャリアカウンセリングでは、こうした不安の声が寄せられます。転職希望者の中には、転職活動は初めて、という方も少なくありません。ご自分の市場価値やアピール方法を知らないケースが目立ちます。

――どのようなサポートを行うのですか

石井氏:キャリアカウンセリングでは、希望条件を伺うとともに、自己分析を行ってもらいます。自分の強みを把握し、自己PRへとつなげます。必要に応じて応募書類作成のサポートも行います。

また、面接対策では、「柔軟性があるか」「組織に馴染めるか」といった企業側の懸念を踏まえ、応募企業に応じたアドバイスを行うわけです。

私がよくお伝えするのは「自分を知ることの大切さ」です。これまでに自分が何をしてきて、応募企業に対し何ができるのか、自分を知り、PRできることが必要なんです。といっても「話し上手になれ」というわけはありません。自分の長所と働く姿勢を伝えることで採用の可能性は大きく高まるのです。

転職活動を「新たな人生」のスタートに

――転職を考えているシニア世代にメッセージをお願いいたします

石井氏:ミドルシニア・シニアにとって、転職は大きな挑戦かもしれません。しかし、転職活動を通じて自信と輝きを取り戻す方も多くいらっしゃいます。

「自分のタフネスさに気づいた」「自分ができることが広がった」「新しい環境で重宝されている」「これまでの経験は間違いじゃなかった」。こうした声を聞くたび、転職は「第二の人生」のスタートなのだと感じます。

「人生100年時代」ではリタイア後もまだまだ長い人生が待っています。新たなチャンスをつかみ、自分らしく輝く場所を一緒に見つけていきましょう。

doda:https://doda.jp/
HiPro:https://hipro-job.jp/

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《石原健児》

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