【定年制度】「シニア世代に選ばれないと生き残れない」ダイワハウスが60歳以降も“年収が下がらない制度”を導入した理由

大和ハウス工業 人事部人事グループ長 木村圭佑氏 (C)大和ハウス工業株式会社
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 少子高齢化と労働人口の減少が進む中、シニア人材の活躍はより一層重要性を増している。こうした状況を踏まえ、大和ハウス工業株式会社(以下、ダイワハウス)では、60代以降も社員が現役として働き続けられるよう、シニア向けの2つの制度を導入している。

  • アクティブ・エイジング制度(2015年導入):65歳以降も現役として働ける嘱託雇用制度

  • 67歳選択定年制度(2025年4月開始):定年年齢を65歳または67歳から選択できる制度

 これらの制度は、定年後も豊富な経験や技術を活かしながら活躍したいという社員の声や、深刻化する人材不足への対応から整備されたもの。本人の希望やライフスタイルに応じた働き方ができる点が特長だ。現在では、60歳以降の継続勤務率94.1%、50代以上の中途採用数が前年比250%増と、制度活用が人材確保にもつながっている。

 今回は、これらの制度の狙いや実際の運用、今後の課題について、大和ハウス工業 人事部人事グループ長の木村圭佑氏に伺った。 

シニア世代に選ばれる企業でなければ生き残れない

ーー大和ハウス工業は、2013年ごろからいち早くシニア人材活用に取り組んできました。その背景について教えてください。

これまで当社では、新卒採用を中心に人材を確保していました。しかし、少子高齢化や労働人口の減少により、若年層の採用は年々厳しさを増しています。加えて、当社の場合は技術者不足や、過去の新卒大量採用による年齢層の偏りといった課題もありました。知識と経験を豊富に持つシニア世代からも選ばれる企業になることが、持続的な成長には欠かせないと判断し、早期から制度整備を進めてきたのです。

ーーシニア世代の職員はどれくらい在籍しているのでしょうか?

1995~1997年度、2005~2008年度の大規模新卒採用により、職員の人員構成に偏りが生じていた(※大和ハウス工業株式会社提供)

2025年5月1日現在では、職員約1万7,000人のうち、60歳以上は全体の約6%です。当社の人員構成は1995年~1997年度に実施した大規模採用の影響でいびつにになっており、主要年齢層が50代・60代へと移行することが予測されています。人口減少が進む中で、有資格者の数は限られています。特に若年層の採用は年々難しくなっており、持続的な企業活動を続けるには、今後50代・60代に活躍してもらうことが不可欠です。

大和ハウス工業のシニア活用制度の歩み(※大和ハウス工業株式会社提供)

そこで、2013年ごろからシニア活用制度の導入を推し進めました。現在では65歳以降の継続勤務を支える「アクティブ・エイジング制度」、定年を67歳まで延長できる「67歳選択定年制度」など、シニア活躍支援の基盤を築いてきました。

生涯活躍を支える2つの柱「アクティブ・エイジング制度」と「67歳選択定年制度」とは?

ーーアクティブ・エイジング制度の内容を教えてください。

2015年4月よりスタートしたこの制度は、65歳以降も現役として働き続けることができる仕組みです。定年を60歳から65歳に引き上げた当時、「65歳以降も働きたい」という声を一定数いただき導入しました。当初は、嘱託雇用として原則70歳まで勤務可能で、週4日勤務、月給20万円、賞与は職員の半分程度の支給率という条件でした。

ーー技術職と一般職での条件に違いはありますか?

技術職については、さらに柔軟な対応を取り入れるため、2023年にアクティブ・エイジング制度を改定しました。年齢制限を撤廃し、週5日勤務も可能とする「現役同等コース」を導入しています。“現役同等”といっても、単に以前と同じ働き方を求めるわけではありません。本人の希望やスキル、経験を考慮し、適切なポジションに配置することで、長年の知見を活かした新たな活躍の場を提供しています。

2023年に行われたアクティブ・エイジング制度改定で、給与水準の見直し、技術系職員の年齢上限撤廃が導入された(※大和ハウス工業株式会社提供)

ーー2022年3月には、役職定年制度を廃止していますが、どのような背景がありましたか?

年齢を理由とした処遇の変更、特に給与の低下は、職員のモチベーションに大きく影響します。そこで役職定年を撤廃し、年齢による年収水準の引き下げを見直しました。ポジションや役割が変わらなければ、60歳までと同じ給与体系で働けるように統一し、役職任用や昇格の機会も開かれています。

ーーさらに、2025年4月から「67歳選択定年制度」がスタートしましたね。

はい。2025年4月より、全国転勤ありの職員を対象に、定年年齢を65歳または67歳から選べるようになりました。社会環境やニーズの変化に応じて、制度のブラッシュアップを進めています。

職員は定年の年齢を選ぶことができ、その後も勤務継続が可能。(※大和ハウス工業株式会社提供)

ーー選択肢が増えることで、逆に活用が難しくなることはないでしょうか?

選択肢が増えたことは、一人ひとりが「これからの人生をどう生きたいか」を主体的に考えるきっかけになっています。自ら考え、選択する“自律”こそが、生涯現役を実現するカギだと考えています。そのため、キャリアを見直すための「ライフデザインセミナー」などのサポート体制も充実させています。

キャリア教育の制度一覧(※大和ハウス工業株式会社提供)

シニア人材に期待するのは「企業文化の継承」

ーー企業として、シニア人材にどのような期待を寄せていますか?

人材不足や年齢層の偏りといった単なる労働力確保はもちろんですが、私たちはそれ以上に、企業文化と技術力の継承に重点を置いています。当社が長年培ってきた知識や経験は、単なるスキルにとどまらず、独自の文化や考え方も含め、極めて大きな価値を持っています。これらを次世代に伝えていく役割を、シニア人材に担ってもらいたいと考えています。

ーー長く働かれている方が多いことも関係していそうですね。

はい。シニア活躍の制度は、経験豊富な人材の流出防止にもつながっています。従来は、60歳以降の処遇低下を理由に、独立や転職を選ぶケースも少なくありませんでした。ですが、生涯現役で活躍できる環境を整えることで、「自分たちのことを大切に考えてくれている」という安心感を持ってもらえています。

ーー採用活動にも良い影響が出ていますか?

実際に、50代以上の採用数は前年度比で250%増の42名に達しました。60歳以降の継続勤務率94.1%で働き続けたい人が増えています。転職希望者の多くは60歳以降の処遇に魅力を感じており、当社の強みのひとつになっています。

ーー「アクティブ・エイジング制度」の成果を教えてください。

直近では、アクティブ・エイジング制度の対象者182名のうち123名が制度を利用。また、「67歳選択定年制度」も、対象77名中60名が活用しています。全体として、60歳以降の継続勤務率は94.1%に達しました。役職定年の撤廃により、60歳以上でライン長を務める職員も300名程度(全体の11.5%)に増加。社会全体では、65~69歳の就業率が約50%程度といわれる中、これだけ多くのシニア職員が現役を続けていることは、時代の変化を象徴していると感じます。

ーーシニア活躍の土壌が整う一方で、現役世代の反応はいかがでしょうか?

アクティブ・エイジング制度では、ベテラン職員の経験を活かす配置転換も行っています。たとえば、営業所長だった職員が営業推進部門へ異動し、若手営業職員と取引先の橋渡し役を務めるケースや、工事部の責任者が安全部に異動して現場監督のサポートや指導を行うケースなどがあります。

こうした取り組みにより、若手社員にも新たな役割の機会が生まれ、組織内に好循環が生まれていると感じます。シニア職員自身も、新たな役割を担うことでモチベーションが高まり、非常に元気でエネルギッシュな印象を受けています。私自身、直接話を聞くたびに、働き続けることの意義を再認識しています。

制度はあくまで手段のひとつ。自分で選ぶことが本当の“生涯現役”につながる

ーー今後、シニア人材活用における今後の課題は何でしょうか?

ひとつは勤務地の問題です。家庭の事情や介護などで、希望に添えないケースもあり、今後さらに柔軟な対応が求められると考えています。もうひとつは勤務時間の選択肢です。特に「短時間勤務を希望したい」という声も上がっており、対象者が増えればニーズはさらに高まるでしょう。今後は、フルタイムに限らず、時間を区切った多様な働き方を、制度として整備していく必要があります。

ーー将来的に定年年齢をさらに引き上げる可能性はありますか?

現時点では明言できませんが、社会や会社の状況を見ながら、柔軟に対応していく考えです。ただし、私たちが何より大切にしているのは「制度に縛られない働き方」です。制度はあくまで“選択肢”を広げるための手段に過ぎません。必ず使うものではなく、自分に合った働き方を自ら選ぶことが、本当の意味での“生涯現役”につながると考えています。


《平木昌宏》

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